静電気でパソコンがぶっ壊れる説。
昔からパソコンの中身をいじる際は静電気に注意しろと言われており、私もメーカーの修理現場では静電気防止のマットに立ちシートの上で作業し、服も対応、中には腕からアースを出している人も。
しかし本当に故障するものなのか、考えて参りましょう。
※1月頃書いた記事なので、内容が古い場合は脳内変換を。
当記事では結論は出ていないので、結果を求めて検索されて来たなら失礼。しかし、説得力は有ると思うので暇なら最後までお付き合い有れ。
ちなみに私は静電気でパソコンが故障するとは思っていない派で、実際に静電気で故障したという話も聞いた事が無い前提で書いております。
静電気でパソコンが故障するという話の考察
1.静電気が故障に繋がるという話は結構多い
静電気&故障でググると初っ端に出た記事がこちら。
電源ボタンやマウス、USB機器の差込口などを通して、パソコンに静電気が流れると、パソコンが誤動作したり起動しなくなったりする可能性があります。
富士通が言っているのだからそうなのだろう、と思いたいけれど、富士通では単純に故障という書き方では無く、誤動作や起動しなくなるという表現なので何か知っているのか。
そして可能性が有るという曖昧な言い方となっており、静電気が原因で必ず故障するとは言い切れないのでしょう。
このような説明はPCメーカーに限らず、メーカー以外のパソコン修理業者や自作PCマニアが注意喚起しているけれど、実験して壊した人やメーカーの検証結果などは発見出来ず。
2.静電気防止グッズの種類は多く売れている
静電気に注意しよう系のグッズは多く販売されており、精密機器(パソコン)用として販売されている物も種類は多め。
これのおかげで冬、静電気に怯えて全裸でパーツ交換をすることがなくなりました。
リストバンド以外にも静電気防止手袋や、私がメーカーの修理現場で使っていたようなマットとか作業台用のシートなども販売されており、レビューの多さから見るに売れている御様子。
私の目には電磁波防止エプロン並の胡散臭さと映っております。
3.故障の原因が静電気ならば判らないはず
自作して静電気でPC壊した事が有るか?という質問の回答。
壊した事は無いです。 金属は、触るなら水道とかがオススメ。 大丈夫かどうは?です。 フリース等、静電気を起こしよい服装は避けた方が良いですね。 放電した後で、色々と動いてる間に溜まりますよ。
私も壊した事はございません。ちなみに私は冬になると特定の鉄扉で8割以上の確率で電気ショックを浴びるほどの帯電スキル保有者。
メーカーの修理現場では静電気防止設備が整っていたけれど、それは修理品を触る作業場所のみで有り、検査用のまな板状態になっている仮設PCの周囲には静電気防止の何かは無し。
自作歴が長いわけでは無いけれど、昔からパソコンの中をいじる機会は多く、メーカーの修理現場に居たなら、まな板PCを触っている時間も普通の人よりは長いはず。
もし故障したとしても「静電気が原因?」と思った事など一度も無く、メモリを抜き挿しするなどの作業時は電源プラグを抜いている程度。
4.RAMへ電子ライターの電気を当ててみる
無駄だろうと思うけれど、メモリへ電子ライターの火花を発射する実験。
右のコードが出ている部品が火花発射装置で、これをメモリの色々な所へ20回くらい当ててみたけれど故障せず。
静電気ではありません。種類がありますが数千ボルトです。一万ボルト近いものもあります。
火花を手に当ててみると静電気ほど痛くは無いので数千ボルトと思われるけれど、この状態のメモリに静電気を散らしても故障しない可能性が高い(と思う)。
5.落雷のサージで故障したPCは存在する
、デカい電気と言えば雷のサージ。落雷した物のみでは無く、落雷地点の周辺に及ぶ高電圧。
雷が落ちると瞬間的に3,000~4,500vもの高電圧が流れます。パソコン本体・周辺機器の故障や、最悪の場合発火の原因にもなります。
source:雷の基礎知識 - サンワサプライ株式会社
こちらは私が修理現場で現物を見ており、修理依頼者いわく「近くに雷が落ちた後、パソコンの電源が入らなくなった」のような説明が有り、どこが故障したか調べて行くと、電源やマザーはともかく、CPUとメモリまでフルセットでぶっ壊れていた件。
通常の使用ならパソコンがこのように複数箇所同時に故障する事はまず無く、どこか1箇所おかしくなるもの。※ヒートシンク目詰りでマザーとCPUが同時に逝く例外は有り
見た目は普通。焦げたとか燃えたような痕跡は無く、コンデンサが液体をお漏らししたような異臭も無し。
落雷と言われなければメーカー(私達)側も判らなかったかも知れない、要するに静電気で故障するなら「静電気が散った後にパソコンが動かなくなった」と申告が無ければ判らないと同じ。
静電気でパソコンは故障しないのでは?という仮説
1.既に静電気対策されているのでは?
以前もまとめ記事にて静電気で本当にPCは故障するのか?という話を書いた際、メールで参考になる情報を頂戴した内容がこちら。
2004年の中盤以降、大手のマザーボードメーカーはICH5を備えたマザーボートの不良率が増加していることに気が付いていた。原因は、あるICH5のステッピングで静電気耐性が不十分になっていたことである。特に、PCケースのフロントパネル側でUSBデバイスを接続した場合(後略)
source:I/O コントローラー・ハブ - Wikipedia
言い換えると、2004年以前からマザーボードは静電気耐性が充分だったとも言えましょう。当然ながらこの件以降、静電気耐性を落とすわけが無い為、ICH5以降のマザーボードは対策されているのでは?という、仮説というか対策されているはず。
マザーボードは全てのパーツを接続する中心の基板なので、ここに静電気耐性が有るなら、例として通電中にメモリを触るという不自然な事をしても、マザーには静電気は通用せず、故障してもメモリ単品だけでは?という話。
ケースに直接付いている可能性が有る物は、マザー、ストレージ、電源ユニット、光学ドライブなど。
マザーが遮断してくれるなら、メモリとCPUの故障はケース外からの静電気は関係無いという事になり、富士通の最初の解説は矛盾しております。
2.CRTとの組合せが矛盾しているのでは?
現在は当然のように液晶モニタが使われているけれど、昔はCRT(ブラウン管モニタ)が主流というかそれしか無かった。
PCモニタ以外にテレビもそう、ちなみにゲーセンのモニタもブラウン管。裏側の超高電圧は別として、画面の表面は静電気まみれ。
CRT主流は1900年台の話。その当時から静電気でパソコンが故障していたなら、NECの100万円クラスのPC-98や、シャープのゲーム機(X68K)でさえ30万円以上していた時代。隣に静電気まみれのモニタが有るのに故障の原因になるなら、パソコンなんて怖くて買えないと思う。
3.家電製品は静電気で故障しないのか?
最近の家電はパソコンに近付いているほど高機能な物が出ており、構造が近い物ならテレビレコーダや、プレステ3以降の中身がパソコン風。家電やゲーム機は静電気では故障しないのにパソコンは故障すると言われるという不思議。
HDD搭載ゲーム機やHDDレコーダとパソコンの違い、特にプレステ4やXboxなど中身はパソコンと似ている物はどう違うのか。また、静電気で冷蔵庫や炊飯器が故障するなども聞いた事がございません。
4.静電気より携帯電話の方が問題では?
脱線するけれど、個人的に静電気より怖いと思った物が携帯電話。
ここではスマホでは無くガラケーの方を指しており、パソコンの横に置いた携帯が電話を着信した直後(音が鳴り始める数秒前)、HDDがクラッシュした時のようにカッコンカッコン言い始めた件。
位置関係は携帯はデスク上、その右上10~15cm辺り、約1mmと思われるスチール製PCケースの中にHDDは搭載。
気のせいかと思い、その後に固定電話からガラケーへ発信すると、やはりクラッシュ音が鳴り始めてビビった。HDDは故障していないけれど、携帯電話の電波がHDDに影響するとは知らなかったので怖かったという実体験。
私のPCのHDDや以前使用していたガラケーの機種固有の問題や、HDDでは無く制御している電源ユニットやマザー側の問題かも知れないけれど。
では、これでパソコンやHDDが故障するかと言えば不明。HDDがクラッシュ防止の為にアームを退避していなかったとは言い切れない。
5.アース線付の電源ケーブルを見かけない?
最近見かける機会が少なく感じる、この手の電源プラグ。
source:電源ケーブル<7A-125V> :ケーブルダイレクト
最近の完成品PCの電源プラグはあまり良く知らないけれど、自作する人なら電源ユニットに電源コードが付属していたり、液晶モニタでも付属しておりましょう。
ブラウン管主流の大昔はこの手のアース用配線付の電源プラグが多かった気がするけれど、最近は見かけなくなっている印象。金属3本のプラグを2本へ変換するアダプタに付いていたり。
実際に私の手元に有る電源プラグ、7本の中でアースの線が付いている物は1本のみ。古い物は捨てているので減った、イコール最近のプラグはアースは不要と考えられましょう。
私の自宅内の機器でアース線有りの家電は洗濯機と電子レンジくらい。デスクトップPC2台、それ用液晶モニタ3台にはアースの線は付いておりません。
私は電気の勉強をしていないので静電気との関係は判らないけれど、昔の機器ほど帯電しない、放電の必要が無いのでは。
最近のパソコンは静電気対策されているはず(まとめ)
仮説5つに共通させた点は家電やPCメーカー側の対応。
- PCで「静電気で故障する事が有る」などの注意書を見た事が無い
- 最近の話では無く、私の知る限りの昔からそのような注意は無い
- 「静電気で故障しません」とは言えないし、書く必要性は皆無
- 最近のパソコンそのものが故障しづらくなっているのでは?
- アースの無い電源ケーブルは1つの証明(になるのか?)
以上より、静電気を防止しなくて良い理由にはならないものの、都市伝説を信じて無意味な商品を購入しまくるような行為もバカバカしい。
静電気とパソコンの故障は関係無いと言い切れないけれど、私は今後も自分のパソコンをいじる際は特に静電気を気にせず作業するので、もし故障したならまた報告しましょう。
本当に静電気で故障するのなら、保証が切れる直前のPCや家電製品はコンロの着火装置で壊せる可能性が有り、メーカーがそのような安易な不正への対策をしていないとは思えず、バレずに意図的な故障を起こせるなら保証を付けられないはず。
また、昔話だけれども、電子ライターの火花でゲーセンのゲーム機のクレジットを上げるというイカサマ。あれをコンロの着火装置を抜いて自動連射していた猛者も居たけれど、ゲーセンの筐体も基板も故障しなかったので余談として。※単一電池搭載、火花は静電気の数倍は太かったので万単位のボルト数が出ていたと推測
突っ込みが有ればコメント、または全文公開OK用メールアドレスまで(pub@bto-pc.jp)情報お待ちしております。静電気でパソコン壊す実験ページとか有れば神。
故障の可能性として私が考えられる事例だと、放電による火災ですね。
1.CPUグリスを除去するために、アルコールやベンジン等を使う
2.放電により引火
3.周囲のホコリを巻き込んで炎上
以上のようなコンボ。万が一より低い可能性でしょうが。
>自作して静電気でPC壊した事が有るか?
私も経験は無し。友人知人ネット記事を含め、聞いたことも無し。
>火花を手に当ててみると静電気ほど痛くは無いので数千ボルトと思われる
静電気はおおよそ2,000~4,000Vくらいだと思いますが、場合によって10,000~20,000Vくらいの放電もありえるのだとか。スタンガンかと。
びっくりするほど高電圧?静電気の電圧について | 雑学の駅
http://zatugakunoeki.com/science/3441/
発掘!あるある大事典 第58回『髪』 髪1
http://www.geocities.jp/y_youko823/kami1.htm
>雷
原理的には雷も静電気なのですよね。こちらは数億ボルトくらいありますが、電流値が低い点は同じ。
>既に静電気対策されている
電源のコードにアースが付いてい(ないものもあ)る辺り、中身であるPCパーツにも何らかの静電気対策が施されている、と考えるのは妥当ですね。サウンドカードなんぞ、PC内で発生した電磁波によるノイズをカットするため、アルミやら銅やらのシールドで覆っている製品もあるくらいですし。
>固定電話からガラケーへ発信すると、やはりクラッシュ音が鳴り始めて
私の環境だと起こったことがありませんね。ガラケー時代はPCケースがスリムケースだった時代もありますが、ケース上へ置いたまま着信しても、HDDから異常音が聞こえた記憶は無し。だたし、電磁波が電子機器を誤動作させる可能性はゼロとは言えませんから、面白い事例ですね。
>アース線付の電源ケーブル
手持ちの電源ケーブルが何本だか数えたことはありませんが、およそ10本くらい。うち、確かにアース付きのケーブルは2~3本くらいしか無かった気がしますね。
というかそもそも、日本の住宅に設置されているコンセントのうち、アースを取り付ける事のできるタイプは家中に1~2箇所くらいしか無いので、PC関連には勿体無くて使えないのでは。あってもエアコン用に天井近くとか、キッチンの近くとか、およそPCを使う環境に相応しくない位置でしょうし。
すらるど - 海外の反応 : 「日本のコンセントにはアースが付いてないのか?」:世界各国のコンセントに対する海外の反応
http://sow.blog.jp/archives/1004097312.html
私的にはPCパーツ、特にCPUの歩留まり低下の原因に静電気が関与(シリコンウエハーをピックスする際に帯電して放電し破壊、静電気発生に伴う電磁波の発生で機器が誤動作する、等)していますから、それが巡り巡って「静電気がパソコンを壊す」という都市伝説的な注意喚起に繋がったのでは、と考えられない事もないですね。
書き忘れにつき追記。
日本のコンセントは2口(差し込み口が2つ)ですが、うち片方がアースになっています。ですからわざわざアース線を取り付ける必要はない、という考えも有ることは有るかと。
>静電気でパソコンがぶっ壊れる説
静電破壊。私ら半導体から各種部品、そして組立てまでに至るメーカーの人間にとって静電気は敵。判っているから防御策を施してはいても材料や工程の組合せによっては思いもよらぬ場所がコンデンサ化していて、隙を突くような射撃を受けます。射撃と表現しましたが、顕微鏡レベルでホントに射撃されたかのように穴が明いて破壊されます。(写真は流石に出せないので悪しからず。)
工場での対策事例はソニーさんが公開しているpdfから。
半導体品質・信頼性ハンドブック 4.2項 電気的破壊に対する取り扱い上の注意
http://www.sony.co.jp/Products/SC-HP/quality/pdf/qr_chap_4_2010.pdf
>最近のパソコンは静電気対策されているはず
その通り。今はそうした要求があって半導体から基板に至るまで各所で設計上の配慮はされてます。なので、雷以外の、日常生活における静電気であれば大丈夫でしょう。(絶対とは言わない)
NXPさんの公開しているpdfから。
ESD/EMC設計ガイド
http://www.jp.nxp.com/wcm_documents/techzones/japan-techzone/doc/AN10897_J_rev2_20100128.pdf
御富士通様の基板への対策例をば一つ。
http://www.fujitsu.com/jp/solutions/business-technology/tc/fields/cae/poynting/esd-pcb-chassis.html
↑と矛盾するではないかという突っ込みは当然あるとして。設計上の配慮はあくまで完成品としてのもの。製造工程では材料や工法の制約からどうしても限定的にならざるを得んのが実態。特に立上げ初期、その隙を突かれてバチバチと射撃される訳なんです。
>落雷のサージで故障したPCは存在する
私も見ました。ええ、自分の目の前で。自分のPCが電撃死するのを。